恥や外聞

悩んだ顔で頭を抱える外人女性

随分昔の話になりますが、私はある事情により生活面でどうしようもない状況に陥ったことがあります。
食事も満足に取ることが難しく家賃も滞納しており、いつ追い出されるか分からない様な状況でした。
そこまでいってしまうと具体的な解決策はなく、多方面に相談したところで殆んど意味がありません。
途方に暮れていたそんな時に、とある相談所の存在を知った私は電話で問い合わせたのち、藁にも縋る思いで訪ねることにしました。

そこは一軒家なのか事務所なのか、とにかくとても古くて狭い建物で、中に入ると色んな書物や書類などが山積みになっており、狭い空間がさらに狭く感じる様でした。
中にいたのは中年で痩せ型の男性一人(仮にTさんとします)で、ヨレヨレのTシャツにジーンズ姿、素足にサンダル履きで、髪もボサボサ。
昔のヒッピーを想像してしまう様ないでたちで、正直私は(なんだここは、大丈夫なのか?)と不安を感じた程です。
そんな心境のまま、私はその時の実際の状況を全て事細かに説明しました。
するとTさんは

「よしっ、今から一緒に付いてきて」

と言うので、これまた年代物の自転車を手で押しながら、私の歩くペースに合わせてくれるその人に不安感を抱きながらも付いて行きました。
向かった先は議員事務所や役場、他にも行きましたが、Tさんは行く先々で私の為に人が変わった様に一生懸命に訴えていました。

見ず知らずの私の為にここまでするのか?という位に行動してくれるTさんを見ているうちに、最初に不安を感じたその身なりも含めて、物凄く格好良く頼もしい存在に映ったことを今でも鮮明に覚えています。
しかも実際にほぼその日のうちに、私が生活を持ち直す為の段取りを付けてくれたかと思いきや、

「じゃ、私はこれで」

とばかりに、きちんとお礼を言う暇もなくTさんは自転車で帰って行きました。

何かの活動家なのか、一体Tさんは何者で何をしてきた人なのか、今となっては何も分からないのですが、とにかく本当に私が救われた事には間違いありません。
身なりを着飾る訳でもなく、良い車に乗っている訳でもないTさんを格好良いと感じました。
そして、私利私欲を全く感じさせないその人を見て、「こんな人になりたいな」とも思ったのです。

正直者が馬鹿を見る世の中かも知れませんが、人が生まれてきて死ぬまでの間にすべきこととは何なのか、少し考えさせられた瞬間でもありました。

“恥や外聞を捨てる”という言葉があります。
人間誰しも体裁を気にしますし、それは必要なことでもあります。

しかし、それを気にするあまり取り返しがつかない事になったり、逆に余計に体裁が悪くなったりする場合もあります。

最初の一歩というものは非常に勇気がいることかも知れません。
しかし、逆にたった一歩踏み出す事によって状況が変わりますし、意外とその一歩は何でもなかったりもします。

大人は子供に、【分からない事は聞きなさい】【困ったことがあったら相談しなさい】【何で早く言わなかったの?】と言いますが、それでは大人はどうでしょうか?

いじめに遭っていても親に何も言えない子供がいるのと同じ様に、問題や悩みを相談せずに自分の中で留めている大人はいないでしょうか?

大人も子供も関係なく一人の人間です。
必要なことを相談することは当たり前のことで、カウンセラーには守秘義務もあります。

“聞くは恥聞かぬは一生の恥”とならない為にも、今ある問題が発展する前に、お困りごとは是非一度ご相談してみて下さい。

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